JAFEE会報による書評

『外国為替のオプション』

D.F. デローザ (David F. DeRosa) 著

住商キャピタルマネジメント森谷 博之・及川 茂 (翻訳)

東洋経済新報社225p (2000/11/01)ISBN: 4492681078

D.F. デローザはシカゴ大学から博士号を得て、DeRosa Researech and Trading の社長等の為替

デリバティブズの実務に長らくかかわる傍ら、エール大学の客員教授をもつめ、国際ファイナンス

にかんする実務とアカデミックスの両方で活躍している。本書は、為替オプション取引とその応用

に従事する人達のための「実務書」として書かれているにもかかわらず、為替オプション・モデル

の理論について、最近の話題も含めて、厳密性を失うことなく説明をするという困難な仕事を成し

遂げている。そうしたことが可能であったのは、著者の経歴から見れば当然のことからかもしれな

いが、これまでの為替オプションの本にはなかったことである。

本書はまず最初の3 章で為替取引とそのオプション市場についての制度的な側面について解説し

た後に、4 章と5 章で標準的な為替のヨーロピアン・オプション・モデルの基礎について平易に説明

している。6 章では、オプション価格決定モデルにおけるもっとも重要なインプット・パラメータで

ある、通貨ボラティリティについて述べている。ボラティリティの期間構造、スマイル、リスク中

立的確率密度関数、ボラティリティ・トレーディングなどの通常の入門書では説明されていない

トッピクスについても触れている。7 章では為替のアメリカン・オプションの理論と数値解法につ

いての説明が行われており、8 章では、「通貨先物オプション」について、ヨーロピアンとアメリ

カン型のオプションの評価モデルを解説している。最後の9,10 章では、為替に関する様々な「エキ

ゾッチク」オプションをめぐる様々な問題と価格決定モデルについて詳細に解説を行っている。9

章ではバリア(境界)のある時、10 章ではバリアがないときの為替エキゾッチク・オプションの評価

モデル、数値解法、ヘッジ戦略などを説明している。

この本は、実務家を念頭において書かれているが、偏微分方程式を含む多くの式が散見される。

その意味では、気軽に読める本ではないかも知れないが、文系経済商学系大学生の数学知識があれ

ば、オプション価格決定理論や通貨市場に関する事前の知識がなくても、その二つを理解できるよ

うに書かれている。何よりも、通貨デリバティブズに関する実務に深くかかわってきた著者によっ

て書かれているため、実務家が遭遇するであろう様々な問題を前提にして様々なオプション価格決

定モデルやヘッジ戦略、モデルの限界と効用、などが説明されていることが、この本の何よりの特

色であろう。

もちろん、逆に考えると実務の経験の乏しい研究者や学生が、数理モデルの理解を通して、何が

実務で問題であるのかを知ることができる。その意味で実務家と研究者の両方にとってすぐれた為

替オプションの本であると言える。

さらに、二人の訳者:森谷博之・及川茂氏も計量モデルを利用しつつ国際金融や商品市場に関す

る実務に長く携わってきた実務家である。まさに「適役」かつ「適訳」ある。JAFEE の会員に一読

を勧めたい。

なお同じ著者によるによる通貨分散投資に関する著作『外国為替のリスク・マネジメント?国際

ポートフォリオの投資戦略』デーヴィド・F. デローザ (David F. DeRosa ), 三井海上火災保険有12

価証券部, 岩田 暁一 翻訳、ならびに、同氏が編集している為替デリバティブズとそれを用いた

ヘッジ戦略についての論文集、Currency Derivatives : Pricing Theory, Exotic Options, and

Hedging Applications (Wiley Series in Financial Engineering) by David F. Derosa (Editor)

(Hardcover - October 1998) もこの本とあわせて座右の書とし、あわせて読むことが一層の理解を

深めることになろう。

(慶應義塾大学総合政策学部森平爽一郎)