第9章 バリアのある通貨オプション −算出式からは明らかにならないもの より


どのようなバリアーオプションであっても境界が権利行使されたかどうかを知ることにすべてがかかっていて、それはデリバティブの最も長い間論じられている問題の1つである。業界標準はオプションを取引した銀行が明らかな利害関係の不一致があるにもかかわらず境界が権利行使されたかどうかを判断する役割を担っていると考えられている。

この解決の複雑さは外国為替取引の価格が実際に取引に関わったもの以外は実際の取引を見ることができないという事実にある。外国為替の取引は2人の参加者の私的な会話である。上場株式市場のような公的な取引の記録は存在しない。そこで取引の定義に関して何が正当な境界での取引であるかが問題となる。たとえば、最小単位の取引では境界で取引が成立したとみなさないことが合理的である。流動性の薄い市場での取引もまた問題である。たとえば、オーストラリア、ニュージーランドの月曜日の早朝に起きた取引は考慮しない。一部の為替レートで、クロスレートから推測された境界上での取引が成立したかどうかが問題となる。言葉を変えれば、ユーロ/円オプションがユーロ/ドルとドル/円の為替レートによって境界での取引が成立したとして消滅することができるのか?驚くことではないが、多くの議論が境界に関わる当事者の間で起こり、その幾つかは法廷で争われている。

複雑な利害関係の不一致がバリアーオプションの発行者と保有者の間に存在する。ドル/円が115で取引されているときに権利行使価格が115で消滅権利行使価格が123であるノック−アウトドルプット/円コールの場合を考えてみよう。このオプションの業者は他のすべての業者と同様にデルタの中立性を維持したいと考えている。結果として、この業者のヘッジはドル/円の直物の動的な売り玉で構成される。直物レートが消滅権利行使価格の方向に上昇すれば、業者はドルを買うことにより、ドル/円の売り玉を部分的に減らさなければならない。もしこの建玉が123で消滅すれば、業者はヘッジとして機能させるために極力早くドルの売り玉を取り除かなければならない。しかし、事実、業者は直物レートが近く境界を越えるであろうと予測することで、ヘッジの建玉を閉じてしまうことがある。たとえば、ドル/円が122.80を付けているとしよう。今にも123、またはそれ以上高くなりそうだと感じれば、すべてのヘッジを外すためにドル買いを待つようなことはしない。この取引は、ヘッジ(de−hedge)取引として先行して行われているので、バリアーが権利行使される 可能性を実際高めている。

大変頻繁に、業者は損失確定の注文を出すことでヘッジ取引を実行している。このような注文の実行は自動的にバリアーオプションを消滅させてしまうと同時に業者のヘッジのブックから残りの直物の建玉を取り除いてしまう。直物のトレーダーはもとになる直物市場の動向がこれらのヘッジ(de−hedge)のための損失確定の注文に左右される事実を証明している。これらの取引の一部はその取引規模が非常に大きい。

バリアーオプションはマーケット・メーカーに都合の良いように市場をひずませているという印象を読者は拭い去れないであろう。事実、バリアーオプションはヘッジに関して克服不可能な問題をもたらすので、業者に多大なリスクを与えているのである(タレブ1997参照)。