第6章 価格変動性 - 通貨オプションディーリングより

既に説明したように、通貨オプションの値付け業務は活発な外国為替デスクを持つ一握りのマネーセンターバンクに集中している。通貨オプションディーラーの目的はその有利性を勝ち取ることであり、大きな金融リスクを取らずにオプションの値付け業務を通して売り買いの差から利益を得ることである。

通貨オプションディーラーは売り手と買い手の間で取引を回転させることがビジネスであるとこの分野へ新規に参入しようとする者は間違った認識を持っている。言い換えると、ディーラーは銀行の顧客にオプションを売るために、同じオプションを別の銀行の顧客から買い値で買い取り、その後に売り値で売りつけることを待っていると考えられている。これはこのビジネスがどのように機能するかを語っていない。通貨オプションはヘッジを基にディーラーにより売買され、それらの取引されるオプションはオプションのブックに保管される。大きなオプションディーラーは数千の、また、時には数万の通貨オプションをブックに保管している。

ディーラーは、たとえば、ドルと円、ユーロとドルのように対になる通貨同士をヘッジが容易になるように分類している。彼らは2つの手順で市場の方向性のリスクを管理している。最初は、第4章で説明したように直物の外国為替をヘッジとして伴いながらオプションを売買する。このやり方はディーラーにとってオプション取引をデルタ中立なものに変換する。2番目の手順は市場の方向性により引き続き発生するオプションブック全体のリスクを直物の外国為替を用いて持ち高再調整し管理することである。これらの再ヘッジ取引の目的は直物為替レートの動きに伴うリスクを取り除くためにオプションのブックが持つデルタの総計をフラットに保つのである。通貨オプションのブックのデルタ、ガンマ、セータのそれぞれの総計は特定された対になっている通貨取引のそれぞれのデルタ、ガンマ、セータをそれぞれ足しあわせたものである。

規模の経済が暗に意味するものは注目に値する。大きな通貨オプションのブックはさまざまなプットとコールについて買玉と売玉の双方を含む傾向にある。そのためそれぞれの建玉が相殺し合うことによりオプションのブックのリスクに曝されている部分は自然に整理統合されてしまう。これらの実際の効果はブックのデルタをフラットな状態に保ち続けるために再ヘッジの取引を行う必要性が減ることである。これが唯一通貨オプションのビジネスでなにか寡占的な産業構造を作り上げてしまう理由である。

ベガについてはもっと複雑である。取引されているボラティリティーはその期間構造にたいして平行に動くことがないので異なる期間のオプションベガを足しあわせることに何の意味も無いからである。短期の価格変動性は長期のものに比べさらに変動性が大きいのである。

一部のディーラーはこの問題をオプションのブックを時間で区切られた容器に切り刻むことで対処している。それぞれの容器はたとえば6ヶ月から1年までの期間というように、満期までの期間を細かく分けて格納された全てのオプションを含んでいる。それぞれの容器の中で、ベガは加算されるがさほど大きな損失とはならない。

別の方法はウエイト付けされたベガを推定するために満期までの期間全てにわたり実際のインプライドボラティリティーの時系列データに回帰分析を施すのである。ベガは一般的には6ヶ月であるが、満期までのある期間を選択し、それを中心にウエイトを付ける。この加工の目的はオプションのポートフォリオにたいしてベガを標準化することである。期間の長めのオプションのベガはそれぞれの満期において表示価格ボラティリティーの変動幅の度合いに比例して減少して行く。ある通貨のペアーからなるオプションポートフォリオではウエイト付けしたベガを加算することができる。

同様に、金利に関するオプションのリスクは金利の期間構造にたいして平行に移動しないので複雑である。幸運にも、直物為替レートや価格変動性の動きに比べ、期間が1年以下であれば、オプションにとってそれほど重要ではない。それでも、金利リスク、または、ローリスクは数年にも及ぶ通貨オプションについてはどのようなほかの各要素よりも著しい影響を与える。このような理由により、ディーリングを行っている銀行では長期の通貨オプションに関しては金利商品リスク管理者に任されることがよくある。