1.金融市場の暴落とは何か、なぜ、何時、どのようにして起きるのか?

暴落になぜ関心が向けられるのか。

多くの人々を震撼させる大事件である株式市場の暴落に、学者や実務家の関心が向けられている。学術の分野で常識となっている効率的市場仮説では、一片の衝撃的な情報からも暴落が引き起こされると考えられている。しかし、実際にはどのように徹底的な事後分析を行ったとしても、その情報が何であったかを特定する事は出来ない。トレーダーや投資家にとって、市場が暴落することへの恐怖がストレスの原因となっている。いざ暴落が起きると、多くの人々の人生が必ず破滅に追いやられるからである。

通常、暴落を説明するには、何時間、何日、長くても何週間といった非常に短い時間スケールでの発生のメカニズムやその影響を分析する方法を採っている。本書ではこれらとは全く異なる斬新な考え方を提案する。数ヶ月、あるいは数年の間に市場に生じた協調性、つまり、投資家間の相互作用が徐々に増幅され、価格を加速的に上昇させるバブル現象が暴落発生の根本的な原因だと考える。つまり、暴落を「臨界」現象という観点から見ると、何が引き金となって価格を暴落させたのかを特定することはさほど重要ではない。暴落に至った原因は市場が不安定な状態に陥ったからであって、ほんの些細なプロセスや障害も引き金となり得るからである。物差しを指の上に垂直に立てた状態を想像してほしい。物差しは極めて不安定な状態であり、次の瞬間のちょっとした手の動きやわずかな風によって倒されてしまう。この場合、物差しが倒れた根本的な原因は不安定な状態にあったことであり、何が引き金になったかは二次的な要因である。同様に、市場が刺激に対して少しずつ敏感になり、安定性が失われ、次第に「臨界点」へと近づくと考えると、暴落の局所的原因を解明しようとすることがいかに間違っているかがわかる。システムの不安定性が成熟すると些細な要因にも反応するようになる。本書では、暴落が基本的に市場の内生的な原因で起こり、外生的な刺激は単なる引き金に過ぎないという考えを掘り下げていく。結論として、暴落の原因は自己組織化のプロセスにより市場全体で徐々に形成されていくので、通常考えられるよりずっと捕らえがたい。この意味で、真の暴落の原因はシステミックな不安定性にあると言える。

入門 経済物理学

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